ものかきさんに100の質問。/ものかきさんに100のお題。

ものかきさんに100のお題。

1.はじまり

 刺されたのだ。――ああ、この世は不条理なものだな、と思う。
 私はいつも通り、さして遅くもない時間に、特に寄り道をするでもなく近所の小学校のスクールゾーンにもなっている帰り道を歩いていただけだ。
 買ったまま手を入れていない制服に、面白味もなく肩先で切り揃えた黒い髪。別に校則がどうこうではなかった、ただ面倒だからで、真面目なのではなくいわゆるオシャレではないの方が近い。それでも特に非の打ちどころを探せるほどに目立つ容姿でもない私は、一人だから勿論騒ぐ訳でもなく、誰かとケータイで話すでもなく、ただ歩いていただけだ。それは、間違いなく誰に文句を言われることでもない筈だ。
 橋の上を歩いて、川に差し掛かって、ふと目について、あ、川だな、とそんなわざわざ思っても思わなくてもいいようなことをぼんやりと思っていたから、確かに注意力は散漫になっていたかも知れない。
 前から自転車が来ているのには気が付いていた。けれどそれほど狭くもない道幅で人も多くないその橋の上を、元より落ちそうなほど端に寄って歩いていた私は、それ以上避けなくても十分やり過ごせると、そう思って見てもいなかった。
 だからその自転車がいつの間にか斜めに寄せて来ていたことも、右手にナイフを持っていたことも、私はすれ違いざま自分にそのナイフが突き立てられるまで気が付かなかった。
 ラリアットをくらったみたいに、私は腹を抱えてしゃがみ込んだ。二、三咳き込む。自転車は行ってしまった。

 不条理だな、と思った。死なんてものはそもそも不条理なものなのかも知れないが、それにしたって不条理ではないか。
 何故刺されたのか――後付けされる動機以外に果たして理由などあったのだろうか。他の誰でもなく私である、そうでなくてはならない、そうなるべき理由が、だ。
 そこに存在したから殺された。そんな存在そのものを否定されるような理由は、不条理ではないのか。それとも死とは存外そういうものなのか。――とても、不条理だ。
 私はそのとき確かに死について考えていたのだけれど、果たして本当に死を想っていたのだろうか。自分が死ぬのだと、真実思っていただろうか。――わからない。私は不条理だとそう考える傍ら、紅く染まっていく白いベストを、それを押さえて同じ紅にまみれた手のひらと一緒に眺めながら、「ああ、血は洗ってもなかなか落ちないのに」なんてことを考えていたのだから。
 汚れた制服を見て嫌な顔をする母親の顔が思い浮かんだ。勿論、昼食のケチャップを零したのでもないのだから、実際にはそんな反応をする訳はないのだけれど。

 それから、友人の声を思い出した。いつだったかとても奇妙なことを言っていた友人のことだ。いや、実際に奇妙なことを言ったのは、その友人の友人だったか。どっちでもいい、どちらにしろ、それを聞いたとき私は、それをおかしなことだと感じて、それから……ああ、そういうのもありだな、とそう思ったのだった。今なら、そのときよりももう少しもっとよくわかる気がした。
 そういえば、最近一つだけ変わったとこがあった。変わったことを、した。そのときも彼女達はいた、いたけれど、そういえばどうしていただろう、退屈そうにして加わらずにいたのだったろうか。よく思い出せない。色々なことが、曖昧で。
 あのときのようだ。あのときの明かりは頼りなくて、誰もが誰かも曖昧だった。
「じゃあ、……を始めようか」
 あれは、誰の声だっただろう。そもそも誰があんなことを言い出したのだっただろう。
 いや、あんなこと「誰」が始めたんだろう。
 ――もう、どうでもいい。いや初めからどうだってよかったのだ。


 私は、最近の写真でよく撮れている写真はあったかな、とそんなことを思った。

お題提供:[ものかきさんに100のお題。](in A BLANK SPACE

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